道、違えど・・・







三成は自身の城、佐和山城でちっ居中だった。

城の中で三成はこれからの事を考えながら、時折、外の景色を眺めた。

「しばらく、こんな景色みてないな」

ふと、そう思いながら、秀吉や清正、正則たちの顔が浮かんでは消えた。

『ずい分、嫌われたものだな、俺は・・・』

クスッと苦笑いをこぼす。

不意に、左近の声が戸の外から聞こえた。

「どうした」

「殿にお客様ですよ」

スーと戸が静かに開き、左近とその後ろに見知った顔があった。

「清正」

三成は少し驚きながらも、平静を装う。

左近はそのまま、清正を部屋に通すと、本人は外へ出て行く。

「まさか、ここまで来るとは思わなかったが・・・とにかく座るといい」

「あぁ」

清正は短く返事すると三成の正面に座る。

三成は余分に置いてあった湯のみにお茶を注ぐ。

「お茶しかないが」

「構わない」

短い返事と言葉。

会話が続かない二人。

「で、何の用だ?ちっ居中といっても俺は暇ではないからな」

三成は清正の顔を見るとそう言った。

「それに俺と会っていることが分かれば、お前に不利になるやもしれん。帰ることだ」

ぷいっと三成は外に目を向けた。

「ふっ、相変わらず、ムカツクヤローだな、三成」

口を開いたかといえば、清正はそうつぶやいた。

「なら、帰ればいい。俺に会うとそうなることくらい分かるだろ」

清正はお茶を一気に飲み干すとダンッと湯のみを台に置いた。

「三成・・・家康様につくことはできないのか」

清正はまっすぐと三成を見つめてくる。

真剣な表情だった。

「あんなことしたのに、今度は味方になれ。か、ずい分勝手だな」

清正は三成に近づくと肩を掴んだ。

三成は強い力で掴まれ、驚き、反応が遅れた。

「三成、俺はお前を失いたくないんだ」

「清正・・・?」

いつになく真面目な双眸が三成に向けられた。

いつもなら、ここで三成がひねくれた言葉でも出るはずが、

何故か三成の口からでることはなかった。

ギュッ

力強く、男のごつい男の体が三成の体に押し当てられる。

力任せに抱きしめられた。

「・・・清・・・正・・・」

一体何が起きたのか三成はわからなかった。

清正とは秀吉の子飼いの将として、ねね様に育てられた。

いわば、兄弟のようなものだ。

三成は清正の体を離すと笑みをこぼした。

「清正、俺は秀吉さまから『頼む』と託された。だから、それを守りたいのだ」

秀吉の嫡男、秀頼は幼い。

その実権は側室の淀とそのとりまきが握っている。

今の豊臣政権は秀吉が生きていた頃と違う。

三成もそう時折、感じていたが、放り出すこともできなかった。

「お前だって、気づいているはずだ。今の・・・」

三成は清正の口に手を当てる。

「それ以上、言うな・・・それ以上、言わないでくれ」

三成は決して、家康が嫌いなわけではなかった。

秀頼の後見人としてそのまま、治世を守っていってくれたのなら、

こんな戦を考えることもなかった。

だが、家康は行動を始めた。

三成もそれを阻止しようと行動を移しただけだ。

「三成・・・お前はバカヤローだ」

清正は三成の手をどかすと静かに自分の唇を三成のそれと重ねた。

優しい、甘いくちづけだった。

清正はそのまま、三成を床に押し倒すとさらに口づけた。

三成は少し唇が離れた瞬間、空気を吸い込む。

「三成・・・」

清正の手が三成の衣類にかかる。

その時、戸の外に人の気配を感じた。

三成は体を少し起こすと、

「左近か、どうした?」

「殿、お邪魔して申し訳ありません。お客さ・・・」

左近の声が終わらない内に戸が勝手に開いた。

「おら〜清正!! 俺を呼べっていっただろうが!!」

「「正則っ!!」」

そこに立っていたのは福島正則だった。

正則は清正と何かあったらしく、突っかかっている。

三成は戸の開いた先にいる左近に顔を向けた。

「左近、酒と適当に肴も用意してくれ」

呆れる三成に苦笑いをこぼす左近はそのまま、その場を離れた。

「まったく、暑苦しい男だな、正則」

静かにつぶやきながら、三成は台の上を片付ける。

「今晩は泊まっていくといい。酒と肴くらい出すぞ」

その言葉に正則は機嫌がよくなったのか、おうよ。といって適当に座った。

「で、お前、何で来たんだ?」

清正が聞く。

「あァ?何言ってんだ。お前が三成ンとこに行くから、俺も連れてけって言っただろ」

「あぁ〜スマン。忘れてた」

清正は思い出したようにしれっと口に出した。


しばらくして、酒と肴がやってきた。

三人はささやかながら、宴を始めた。





隣の部屋で正則が豪快に寝ていた。

浴びるように酒を飲んで、満足したら寝てしまったようだ。

「相変わらず、バカだな」

清正は三成の言葉にうなづく。

三成は酒の入った杯を口に運ぶ。

「清正・・・その・・・今日は楽しかった・・・ありがとう」

そっぽを向く三成は照れながら、そう言った。

清正は改めて、

『三成はこういう奴なんだ』

と思った。

「三成」

清正は三成を抱きしめようとした。

それを三成は制し、立ち上がった。

「清正、続きは・・・」

三成はそういって、隣の部屋のふすまを引く。

意味を察した清正は三成を伴い、隣の部屋へと消えた。

その隣で正則がまだ、寝ていた。



結局、正則が何故、三成に会いたかったのかは不明であった。






おわり